【映画レビュー】『新感染 ファイナル・エクスプレス』

 日本で例えると、東京駅から京都駅を繋ぐ東海道新幹線の長さよりも少し短い。国土の北に位置するソウルから南端のプサンまで、そのくらいの時間で移動できてしまうくらい、KTXの開通によって韓国内は移動が非常にしやすくなった。

 そんな快適な旅の車中、周囲がゾンビで溢れかえっていたとするならば…話は全く別である。
「たったの2時間ちょっと」の旅が「地獄の果てしなく長い2時間ちょっと」へと変貌してしまう。

 ヨン・サンホ監督の実写長編映画デビュー作である『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、デビュー作とは思えないほどの完成度を備えている。

 ゾンビで溢れかえる高速鉄道内、次々と感染していく乗客たち、絶望に次ぐ絶望…。その展開はスリル満点で“超”が付くほど面白い。そして、映画の冒頭に登場する人々の群像模様から様々な人間模様が覗ける展開となっている。

 絶望の淵に立たされた時に取る人々の行動…生き様…そして、それが必ずしも正しいとは限らない皮肉。そうした人生模様を狭いシチュエーションのパニック映画として、まるで現代社会の縮図のように描いた本作は実に面白い映画だ。

 ゾンビ映画の新たな切り口として非常に高い完成度を誇っている上に、もちろんストーリーも巧みに作られている。

 証券会社のファンドマネージャーである主人公のソグは典型的な自己中心的人間。常に投資と仕事の事しか頭になく、周囲の気持ちなど全く考えていない。そうした彼を見兼ねた妻はプサンで別居中。
 
 ソグは、プサンに住むお母さんに会いたいという幼い娘・スアンを連れて嫌々ながらソウルでKTXに乗り込むことに。車中でも絶えず携帯電話を離さず、途中でゾンビパニックに巻き込まれても自分と娘が助かることしか頭にない、本当にどうしようもない男だが、彼が一連の騒動の中で段々と成長していく。

 そして最後の展開は本当に男というか、ソグがある方法で“父親”としての責任を果たすことになるのだが、この場面は涙なしには観れない最大の見せ場。まさかゾンビ映画で泣くことになるとは…。

 余談だが、最近の韓国のパニック系映画はダメな父親が主人公であることが多い。

 ナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』の主人公も、ダメダメなまま娘の変化に気が付かなかったばかりに大きな災いとパニックへと巻き込まれてしまう。
 (そういえば『新感染』の“ある”重要な要素も実は根底で共通しているという…)

 本作の上映時間は1時間58分。そして、KTXに乗り込んでからの体感時間は、まるで主人公たちに一体化したかのようなリアリティをもって感じる。

 そういえば、この映画、次々と襲い掛かってくるゾンビたちよりも、人間たちの恐怖感や憎悪のほうが遥かに恐ろしいことを思い知らせてくれる。中でもゾンビより最も憎くて恐ろしい、ある登場人物が…という結末も見ものである。

 韓国映画のレベルの高さをあらためて感じさせられる素晴らしい映画だ。

この記事を書いた人

白澤暗

映画やアート作品が好きな20代です。